これはなに
先日Pollaidさんに提供した「風のままに」という曲がリリースされました。
まだ聴いてない人は聴いくれると喜びます。渋谷系ポップスです。
この曲においてボーカルエディットおよびボーカルミックス(に限らずすべてのミックス)をやったのですが、 その手順とテクニックに関する自分用のメモを残しておきます。
最初に断っておくと、ここに書いてあることは誰かに教えられたわけでもなく、自己流でこうするといいかな~と考えてきたものをまとめたものなので、あらゆる人のワークフローにマッチするわけでもなく、よりよい方法もあると思いますので参考程度にして下さい。
ちなみにEP全体でマスタリングも担当していて、その時にボーカルトラックを別でもらっていたので実質全曲のボーカルミックスをちょっとやっていることになります(作曲者側でほぼ整えてもらった曲も多いですが)。
この曲についても忘れないうちに別の記事にまとめておきたい…。
ボーカル曲ができるまで
この記事を読んでいる人には自明な気もしますが、そもそもボーカル曲ができるまでにやることを整理するとだいたい以下のようになるかと思われます。
- 作曲する
- 作詞する
- ボーカルレコーディングする
- ボーカルエディットする
- (ボーカル)ミックスする
- マスタリングする
今回はボーカルレコーディング、ボーカルエディット、ボーカルミックスについてメモしていきます。
ボーカルレコーディング
概要
ボーカルレコーディングとはボーカリストにマイクの前で歌ってもらってそれを録音する工程です。 我々のような低予算型・DIY型プロジェクトの場合はだいたい以下のような感じになります。 リッチな商用音楽でどうやってるのかは知りません。
- 場所: リハーサルスタジオ or セルフレコーディングスタジオ
- 騒音問題・反響問題がどうにかなる場合はボーカリストの部屋のこともあります
- 特にリハーサルスタジオの場合、隣の部屋の爆音がマイクに入る場合がありますが、基本的にはどうしようもなく運ゲーです
- いずれにせよなるべく反響の小さい部屋・反響するものが部屋に置かれていないことが望ましいです
- リハーサルスタジオの場合、ドラムセットが反響する場合があるので、部屋の外に置いてよければそうします(お店の方に許可をとります)
- マイク: スタジオで新品価格5
6万ぐらいまでのコンデンサーマイクを数百円数千円ぐらいで貸してくれることが多いので、それを利用します。- それ以上に高いマイクもありますが、自分は使ったことがないので5~6万位のやつとの違いはわかりません
- ただしダイナミックマイクは避けたほうがよく、コンデンサーマイクがあるならそれを使ったほうがいいです
- 自分はレンジ感が全く違うなと感じました
- その他機材
- ポップガードは必須です。
- スタジオが貸してくれることが多いです。
- 買っても千円位なので買ってもいいかもしれません。
- リフレクションフィルターはかなりあったほうがいいです。
- スタジオによっては置いていないことがあります。
- ボーカリストの歌詞確認用の譜面台
- スタジオに置いてあります。
- ヘッドホン
- 開放型は確実にオケがリークするので密閉型にします。
- パソコン
- 普通にDAWで録音します。
- オーディオIF
- マイクをつなぎます
- マイクプリとかを間に挟んだり、高いIFを使うと音が良くなったりするらしいです。自分は知りません。
- ミキサーなど
- 普通のリハーサルスタジオでやる場合かつ同伴者(作曲者・作詞者)がいる場合には、モニターを2系統以上に分配する必要があり、それ用のものです。
- IFが2出力あるならそれでもいいです。
- セルフレコーディングスタジオならばboothにミキサーがついているのでそれを利用します。
- ポップガードは必須です。
- その他用意するもの
- 歌詞カード
- 紙で印刷してくるのが望ましいです。
- 作曲者・作詞者同伴の場合は、それらの人用にも用意します。
- 水
- のどが渇くとリップノイズ(あとで書きます)がふえやすくなるので、なるべく水を飲んでもらうようにします。
- その他のど飴など
- 歌詞カード
特に自分が作曲者・作詞者のときならば、できればボーカルレコーディングには同伴したほうが良いと思います。 その方がニュアンスの出し方などの細かいところをその場で作り込んでいけます。
流れ
以下では作曲者として同伴する際の流れを書きます。 ひとりで全部やるときにどうするのかは知りません。
- ボーカルレコーディングまでに歌詞カードをつくり印刷します。
- 少なくとも自分用の歌詞カードは行間を多めに取っておきます。
- 歌詞カードにどう歌ってほしいかのメモを簡単に書いておきます。
- どうやってもいいと思いますが、自分は曲頭から適当な範囲(Aメロのみ、Bメロのみ、とか)を区切って行って順番に録音します。
- 録音中に、歌詞カードにVG(Very Good), G(Good), ?(Question)などを対応する歌詞の所にメモしていきます。
- もうちょい良くなりそうな場合や、少し違うパターンが欲しい場合は該当部分を別テイクで録りなおします。
- あとでノイズなどに気が付く場合があるので、少なくとも全フレーズで2テイクは録っておきます。
- 適度に休憩・水分補給してもらいます。
コンピング
録音がすべて完了したら、歌詞カードに書いたメモに従ったり従わなかったりして、一番いいテイクを選んでいきます。 これをコンピングといいます。
ボーカリストがやってくれる場合もありますが、後に問題が出た場合に備えて数パターンもらっておいた方が良いです。
ちなみに、テイク同士をつなげるときはブツ切れにならないようにすごく短いクロスフェードをかけることが多いです。
ボーカルエディット
ボーカルエディットとは、コンピングして出来上がったwavデータに波形編集をかけて、意図した表現に近づけたり、後の工程で処理しやすくしたりすることです。 主に以下のような作業をします:
- ノイズ除去
- 音量調整(手コンプ)
- ミキシング段階でやる人もいますが、自分はここである程度やってしまいます。
- ピッチ修正
- タイミング修正
- 子音調整
順番は任意ですが、自分はピッチ修正・タイミング修正・子音調整はあとになって気になってくる(後戻りする)ことが多いので他の工程よりあとにすることが多いです。
ノイズ除去
ボーカル録音データには次のようなノイズが含まれています。
- ホワイトノイズ
- ポップノイズ
- リップノイズ
これらを頑張って取っていきます。
ホワイトノイズ
いわゆる「サー」というノイズです。 空調の音やPCのファンノイズが入るほか、マイクで録った音を増幅する際にある程度は必然的に入ってしまいます。
空調が入らないように注意し、かつある程度以上のグレードのマイクとIFを使えばほとんどの曲で気にならないレベルのS/N比(歌声の大きさとノイズの大きさの比)にはなるのであまり気にしなくてもいいとは思います。
自分は他のノイズを取るときに一緒に取ってしまいます。 とはいってもフレーズ間の休み部分の音量を抑えているだけです。
RXのスペクトログラムで見てみると、下の画像の左側のように見えます。
ちなみにホワイトノイズ部分が終わったあとブレスがあって歌が始まっています。
RXで範囲選択して、ゲインツールで該当部分の音量を下げまくります。 RXを持っていない人はDAWで休み部分をハサミでカットして無音にするとかでもいいと思います。
ポップノイズ
ポップノイズは、マイクに息がふきかかってしまうことによりボフっと聞こえてしまうノイズです。 下のスペクトログラムでは、音の始まり部分の100Hzぐらいに強めのパワーが見えています。 波形で見ると不自然にぐにゃりと曲がって見えることが多いです。 ポップガードでほとんどは防げますが、p、b、hなどの子音ではどうしても息が入ってしまいます。
RXでは範囲選択してde-plosiveツールを適用すると消せます。 消すと下のスペクトログラムのように低域のトランジェントが消えます。
RXを持っていない人はどうすればいいかわかりません。 あとで説明する全手動ダイナミックEQでどうにかなるかもしれません。
(ちなみに、紛らわしいですが↑2つの図の左側にはリップノイズも見えています)
リップノイズ
リップノイズは口の中で唾がはじけるときの音を拾ってしまったものらしいです。 水をたくさん飲んでいればある程度は防げますが、ブレスの前や特定の子音の前後ではどうしても舌と上顎がくっついたり離れたりするのである程度は乗ってしまいます。 音は「カチ」「チャ」みたいな感じです。スペクトログラムでは細い縦線に見えます。
上の図のように無音部分で乗ることもあれば、がっつり歌の途中で乗ることもあります。 RXであればどちらもmouse-declickツールで消せますが、DAWの機能だけだと後者を消すのは難しいです。 RXを持っていなかったころは、似たような波形を周りからコピペしてクロスフェードをかけて消していたこともありましたが、うまくいくときといかないときがあります。
なお、スペクトログラム上はk、t、chのような子音がリップノイズと同じように見えるので、何も考えずにこれらも消してしまうと非常に滑舌が悪くなってしまうので注意しましょう。
自分は特殊な訓練を受けているので、(ソロで聴けば)聴いただけでリップノイズが乗っていることが分かりますが、多くの人は気をつけないと聞こえないので見過ごされがちではあります。 まあオケにまぜればほとんど聞こえないのでそれでもいいかもしれませんが、自分は気になるので取っています。
以上3つのノイズが取れたらノイズ除去工程は終了ということにしています。
つづく
あまりキリが良くないですが長くなってしまったので一旦おわります。 気力があれば後編が出ます。
後編では使うツールが変わってDAWとメロダインが中心になります。